Okinawa Focus
沖縄特集
『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』 CHIMUGURISA

ちむぐりさ あなたが悲しいと、私も悲しい。
沖縄の言葉、ウチナーグチには「悲しい」という言葉はない。
それに近い言葉は「肝(ちむ)ぐりさ」。
誰かの心の痛みを自分の悲しみとして一緒に胸を痛めること。
それがウチナーンチュの心、ちむぐりさ。
そんな沖縄に、ひとりの少女がやってきた。北国・能登半島で生まれ育った、坂本菜の花さん、15歳。彼女が通うのは、フリースクール・珊瑚舎スコーレ。既存の教育の枠に捉われない個性的な教育と、お年寄りも共に学ぶユニークな学校だ。70年あまり前の戦争で学校に通えなかったお年寄りとの交流を通して彼女は、沖縄ではいまなお戦争が続いていることを肌で感じとっていく。次々に起こる基地から派生する事件や事故。それとは対照的に流れる学校での穏やかな時間。こうした日々を、彼女は故郷の新聞コラム「菜の花の沖縄日記」(北陸中日新聞)に書き続けた。「おじぃ なぜ明るいの?」。疑問から始まった日記は、菜の花さんが自分の目で見て感じることを大切に、自分にできることは何かを考え続けた旅物語だった。少女がみた沖縄の素顔とは――。

  • 監督:平良 いずみ
  • 日本
  • 2019
  • 106分
  • カラー
  • DCP
  • 日本語
  • -

監督:平良いずみ|語り:津嘉山正種|プロデューサー:山里孫存・末吉教彦|製作:沖縄テレビ放送

(c)沖縄テレビ放送

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上映時間・会場

9月22日(木)10:00~
金鐘ホール

※ 空席有りの場合、現地でのチケット購入も可能です

監督
私たちがいま生きている社会は、視野を広げてみていないと、本当に危ないところまで来てしまっていると思います。沖縄の人たちのこと、基地問題のことを伝えるとき、どうしても「政治の問題」としてのみ捉えられてしまいますが、私たちにとっては「命」「暮らし」の問題です。それを、どうしたら「心で感じてもらえるか」というのが、私が大切にしたテーマです。 2016年4月、沖縄県うるま市で米軍属による女性暴行殺害事件が起きました。このとき、私の子どもはまだ6月くらいでした。それでも、居ても立ってもいられず、その事件に抗議する県民大会の会場に行きました。息ができないくらい暑い日でしたが、そこに6万5千人という人が、静かな、やりきれない悲しみに包まれて集まっていました。いざ、それを報道するというとき、例えば全国ネットの在京のキー局からは、「30 秒か1分くらいでちょうだい」と言われてしまう。沖縄県内だけに県民の思いが封じ込められてしまっている。その悔しさというのが、私の原動力なのだろうと思います。 では、どうしたら伝えられるだろう......と悩んでいるときに、私が「ドキュメンタリーの師」と仰ぐ横山隆晴さんのゼミにお邪魔して、近畿大学の学生さん10人くらいにお話を伺ったことがありました。その時、学生さんに、「沖縄の問題を扱う番組は、結論が2分でわかってしまう。だから観ない」と言われたんです。「じゃあ、どういうのが観たい?」と尋ねたら、「自分たちと同じような若い人たちが、本音でどう沖縄のことを見ているのか、知りたい」と言われて。その言葉に、実はとても悩みました。例えば、普天間第二小学校の校庭に米軍ヘリの窓が落下したときも、基地問題に対する住民の分断が深くなりすぎていることで、「基地問題を学校に持ち込んでほしくない」と、メディアの取材に対して敏感になり、「子どもが怖がっているからやめてください」と言われたりしていたんです。「メディアは怖い」という意識が子どもたちにも植えつけられてしまうほどの、根っこにある「分断」、そして、それに対する地元局としてのジレンマも抱える中で、「若い人たちの声」というのはとても難しい。横山ゼミの部屋の壁には、「考え続ける者にのみ閃きは降りる」って書いてありました。それを思いながら3日間、真剣に悩み続けて。3日目に、シャワーを浴びているときに、「菜の花ちゃんだ!」とハッと閃いたんです。お風呂からあがってすぐに、菜の花ちゃんの通う珊瑚舎スコーレに電話をして、「菜の花ちゃんと、繋いでください」とお願いをして。それが、坂本菜の花さんとの初めての出会いでした。「菜の花の沖縄日記」のことは、それ以前から知っていて、「すごい子がいる」と思っていたんですね。 2017年10月には、高江の民間牧草地で米軍の大型輸送ヘリが炎上する事故が起きています。その取材で出会ったのが、牧草地の持ち主である西銘さんでした。西銘さんは、墜落したヘリに乗っていたアメリカ兵を安全な場所に避難させて、自分は東村の消防団と一緒に消火活動に加わっているんです。そして、後から現場には実は放射性物質があったということを聞いている。それでも、西銘さんは「米兵の命は自分と同じ対等な命だから、守ってあげたい」と言った。家族も「米兵のヘリの人は大丈夫だったのかね」と。恨みつらみよりも、不安よりも、「まずは、その人の命」だと。これを報道するときには、どうしても「ヘリが炎上しました」と、圧縮して2分とか、全国放送だと1分だとか、人の記憶をふっとかすめて去っていく、短い報道になってしまうんです。でも私は、西銘さんの命を尊ぶ姿や、その牧草地を守るための長い歴史、そういったものを伝えたいと悩みました。その時に、菜の花ちゃんに連絡をしたんです。そうしたら、「すぐ、行きます。行きたいです」って言ってくれて。そして、菜の花ちゃんが、西銘さんから「言葉」を引き出してくれたんです。メディアの人間にはできない、彼女のまっすぐな目、純真な思いが、相手の心も溶かしてくれる。菜の花ちゃんという人間がいたおかげです。菜の花ちゃんが、いま、一番大切にしていることが、「しゃべることより、聞くこと」なんです。本質ですよね。私は、二十歳の菜の花ちゃんに教わりました。映画で読んでいるナレーションの言葉は、ほぼすべて彼女の言葉です。こちらが書いた言葉は、ナレーションを入れるときに、彼女はつっかえて、読めなくなるんです。自分の中からで咀嚼した言葉じゃなければ、彼女は綴らないし、しゃべれない。それくらい言葉への感覚の鋭さを持っている人です。でもそれは「聞くこと」を大切に心がけているからこそ、そうなるんですね。私自身にとっても大切な課題だと思うのは、やはり「聞くこと」「調べること」、そして「考えること」。原点を忘れてはいけないということを彼女が思い出させてくれました。 映画の最後には、彼女が好きだという、マハトマ・ガンジーの言葉を入れています。私自身が取材しているときに、例えば、被災した人を、被害に見舞われた人を、傷つけていないだろうかというジレンマを抱えている。でも、最終的には、「自分が世界に変えられないために、自分の頭で考える、そのための材料を提供するために私は仕事をしている。そこに矜持を持つんだ」ということを、菜の花ちゃんの言葉で、はっと立ち返させられました。 この映画に描いているのは、本当に小さな小さな声、菜の花ちゃんという一人の少女の言葉なんです。でも、それが、きっと県境を越えるし、国境を越えて、誰かの心に届く。そう、私は信じています。
平良 いずみ

1977年生まれ。琉球大学社会学を専攻。99 年沖縄テレビ入社。2006年に初のドキュメンタリー番組「過疎の村に響く子守歌」を制作、その後、医療・福祉・移民・原発・基地問題など一貫性のないテーマでドキュメンタリーを制作。共通するのは、主人公が社会や人のために闘う人!ということのみ。「OTV live News it!」のキャスターを務める。主なディレクター作品に「ヘリコプターを私にください」(09・FNS ドキュメンタリー大賞 特別賞)、「どこへ行く、島の救急ヘリ~続・ヘリコプターを私にください~」(11・日本民間放送連盟賞 優秀賞/ギャラクシー賞 奨励賞)、「シリーズ 復帰を知る」(13・ギャラクシー賞 報道活動部門 優秀賞)、「おなじ空の下で」(13・ギャラクシー賞 奨励賞)「沈黙を破る時~米軍機墜落の恐怖、今なお」(13・ギャラクシー賞 奨励賞/報道活動部門 奨励賞/ FNSドキュメンタリー大賞 特別賞)、「まちかんてぃ~明美ばあちゃんの涙と笑いの学園奮闘記」(15・日本民間放送連盟賞 優秀賞)

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