20歳の梅本侑伽監督作『袖ふきかえへしても』
「なら国際映画祭2026」でプレミア上映決定!
「明日香村で映画を撮影できたことは、とても貴重で誇らしい経験!」
「飛鳥・藤原の宮都」が、7月26日、韓国・釜山で開催中の第48回ユネスコ世界遺産委員会において、世界文化遺産に登録されることが決定しました。現在の奈良県明日香村、桜井市、橿原市にまたがる「飛鳥・藤原の宮都」は、飛鳥宮跡、飛鳥寺跡、飛鳥水落遺跡、石舞台古墳、キトラ古墳、高松塚古墳など、古代日本の国家形成を伝える19の構成資産からなり、その多くが明日香村に所在します。
この歴史的な節目を迎えた明日香村で、世界遺産登録決定に先立つ今年2月、なら国際映画祭の若手映画作家育成プロジェクト「NARAtive Jr.」第4弾として製作された『袖ふきかえへしても』(英題:What Remains in the Wind)が撮影されました。
監督を務めたのは、奈良県出身で同志社女子大学に在学する梅本侑伽、20歳。中学・高校時代から、河瀨直美監督の直接指導も受けられる、なら国際映画祭のユース映画制作ワークショップに毎年参加し、これまでに6本の映画制作に携わってきており、20歳とはいえ、その実力は河瀨監督の折り紙付きです。
脚本を執筆したのは、京都府出身の22歳、美見マイア。森田想、石川瑠華、原田開が出演し、明日香村の村民の皆さんや学生インターン、プロの映画制作スタッフが参加。2月13日から17日まで、明日香村各地で撮影が行わました。
さらに、9月19日(土)から23日(水・祝)まで開催される「なら国際映画祭2026」にてプレミア上映されることも決定しました。梅本侑伽監督と脚本の美見マイアのほか、なら国際映画祭のエグゼクティブディレクターであり、本作では製作総指揮を務めた河瀨監督からコメントを掲載します。
世界遺産登録決定を受け、梅本監督は、以前から散歩で訪れていた明日香村について、映画制作を通して「見慣れていた景色にも、どんどん新しい魅力を見つけることができた」と振り返り、「歴史的な価値だけではなく、美しい景色や人々の温かさ、地域の方々が長い時間をかけて守ってきた暮らしや文化にも目を向けてもらえたら」と喜びを語り、「そのような土地で映画を撮影できたことは、とても貴重で誇らしい経験」と胸を張って。脚本を手掛けた美見は、飛鳥時代から残るこの地に「驚きと少しの安心感を覚えた」といい、「初めてこの土地へ足を踏み入れた時の感情が、千年後またここに戻ってこられたとしても、どこかには残り続けているのではないか」と、明日香で感じた時間の連なりに思いを寄せる。そして製作総指揮の河瀨監督は、幼い頃から心惹かれてきた明日香を「古代と現在が交差する」特別な地と表現。世界遺産登録について「むしろ遅すぎたという印象があります」としながら、「日本の源流がここにある。明日香は、今なお私の心を揺さぶり続ける、日本人の故郷です」と、その尽きることのない魅力を語っています。
7世紀の日本最古の水時計「漏刻」の地・明日香村。
“恋人”とも“友人”とも呼ばない女性二人の関係を静かに刻んでいく⎯⎯
『袖ふきかえへしても』の主人公は、明日香村でともに暮らし始めた澪(みお)とつむぎ。二人は、お互いを大切に思い、居心地の良さを感じながらも、その関係を恋人とも友人とも呼ばず、名前を付けないまま守ろうとする。澪は、名前がつくことで失われるものを恐れ、つむぎは、名前がなくても関係は続くと信じている。“相手の心にどこまで触れてもいいのか”という緊張と優しさの中で、近づいたはずの距離は、言葉にできない本音や小さなすれ違いによって、少しずつ揺らぎ始める。安心も不満も、言葉にしなければ伝わらない。恋人や友達、立場や期待といった新たな「枠」が二人の前に現れる。家にある水時計の「漏刻」は、対話を通じて向き合う二人の時間を刻み続けるのだろうか⎯⎯
物語にも登場する古代の水時計「漏刻」。世界文化遺産「飛鳥・藤原の宮都」の構成資産の一つである飛鳥水落遺跡は、7世紀に造られた日本最古の水時計台の遺跡とされています。
古代から現代へと絶えず流れ続ける時間。古代の土地の記憶を受け継ぐ明日香村を舞台に本作は、親密でありながらも確かに存在する二人の距離と、二人の関係に名前を付けることへの戸惑いや緊張を描いていく。
世界遺産登録“目前”の明日香村の風景、暮らし、空気、そして人々の営みを、若い映画作家のまなざしで映像に刻んだ『袖ふきかえへしても』。世界が改めて明日香村の歴史と文化に注目する今、千数百年の時を刻んできた土地と、現代を生きる二人の時間が一本の映画の中で交差してゆく。
20歳の監督と22歳の脚本家を、プロの映画スタッフと地域が支える
「NARAtive Jr.」は、なら国際映画祭の「ユースシネマプロジェクト」を卒業した若者を中心に企画を公募し、審査を経て選ばれた若手を監督として迎える映画制作プロジェクト。プロの映画スタッフ、インターンスタッフ、地域の方々が参加し、奈良の地で実践的かつ本格的な映画制作を行う。若手映画作家の育成に加え、映画制作を通じた文化・技術の継承、地域の活性化を目指しています。
2023年の第1作『縁々』、2024年の第2作『Muffin’s Law』、2025年の第3作『やまのべradio』に続く第4作となる本作では、梅本監督をはじめとする若い作り手が、河瀨監督の監修のもと、第一線で活躍するプロのスタッフと映画制作に臨みました。
明日香村が世界文化遺産の地として新たな一歩を踏み出す2026年。その土地で生まれた若い映画作家の作品もまた、奈良から世界、そして未来へと歩み始めます。
美見マイア(脚本)コメント<全文>
今年の年明けから、監督と共に脚本制作というものに携わりました。
自分が心地良いと感じる印象を持つ言葉、それさえ連ねていればいつかは形が浮かび上がるだろうと漠然と信じ、私は大切なことをすっかり忘れたまま、制作に取り組んでいました。印象というのは人によって曖昧で、当たり前だが形を変えるということ。だからこそ、それぞれの言葉が持つ意味を理解して、扱い方を理解して、その工程を経て最後に初めて言葉を使うことができる。それに気がついた頃には、明日香村を真っ白に覆っていた雪もすっかり溶けて、撮影期間に突入していました。
やりきれない思いも残しつつ、こんな機会がなければ気付くこともなかったでしょうし、この土地でのこの経験は私にとって本当に大切な学びとなりました。
大昔の都には未だに人の呼吸があり、人間はあまり変わらないものなのだな、と思う一方、暮らしがある分、人の手の痕跡というのはどんどん新しく塗り替えられていくものだと思っていました。それがまさか飛鳥時代当時のものが今もなお残されているという、驚きと少しの安心感を覚えました。はじめてこの土地へ足を踏み入れた時の感情が、千年後またここに戻ってこられたとしても、どこかには残り続けているのではないかと思います。
河瀨直美(製作総指揮/なら国際映画祭エグゼクティブディレクター)コメント<全文>
私にとって明日香は、小学生の頃に石舞台古墳を訪れて以来、心の奥底から惹かれ続けてきた特別な場所です。千年以上前の人々が詠んだ歌が今も残り、その歌に詠まれた山や川が目の前にある。奇妙な姿をした石や、今なお語り継がれる不思議な伝説、高松塚古墳に代表されるような壁画たち──。古代と現在が交差するこの地には、いまだ誰にも解き明かせない謎が息づき、その奥深さが私を魅了し続けています。やがて、この地で映画を撮影する機会をいただき、歴史だけではない、人々の暮らしや営みが今も豊かに息づいていることを実感しました。その体験を通して、明日香は世界中の人々が実際に訪れ、その空気を感じてほしい場所なのだと確信しています。世界遺産への登録は、むしろ遅すぎたという印象があります。しかしそれは、明日香という土地が、一朝一夕では語り尽くせないほど豊かな歴史と文化を抱え、その価値を理解するまでに長い時間を要したからなのだとも感じています。
日本の源流がここにある。
明日香は、今なお私の心を揺さぶり続ける、日本人の故郷です。